1981年楽器フェア展示 ショーモデル

表題に敢えて「ショーモデル」という言葉を選んだのは、このギターがニューモデル開発目的のプロトタイプではないと分かっているからだ。現在は千葉県船橋市でギターラブを主催するクラフトマンが、富士弦の開発部門に社員として所属していたときの作品である。デザインの流れとしては個人性が強く、入社以前に製作したギターのリニューアル版と言った様子だ(ギター・グラフィックVol.2、P61参照)。このギターは2本組作品中の1本であり、残る相棒の方は当時の刊行物「The 楽器'82・83(立東社)」に姿を見ることが出来る。上司から「何か出展してみないか?」と声をかけられ、以前のデザインを発展させ製作したとのことである。この頃、Grecoロゴを持つギターは、全てが神田商会に納入されると言うルールがあったという。製作者は展示後のギターの行方を、ギター・グラフィックVol.5の「Greco特集」まで知らなかったそうだ。一方、1983年のARBアッパーカット・コンサート(後楽園ホール)のレポート写真にこのギターの姿が見られるので、比較的早い段階で田中一郎氏の手元に渡ったことが分かる。後楽園ホールに搬入された時点では、メタルエスカッション、ボディ・トップへシルバーのストライプ追加など若干の改造を受けていたが、独特の形状からすぐにこのギターであると確認できる。外観がPRSに似ていると感じる方が多いことだろうが、1981年のPRSは左右対称のカッタウェイを持つサンタナ・タイプしか存在せず、左右非対称のものが発表されたのは1984年である。仕様に触れるとメイプル3Pネックでエボニー指板。ボディとの接合に特徴があり、ヒールレスの完全なスムース・ジョイントとなっている。フィギュアド・メイプル・トップ/マホガニー・バックのボディは、相当な薄型であるにもかかわらず、非常に凝った3次元構成が特徴だ。Player誌(1998年12月号P320)にある通り、フレットはかなり太めなのだが、コンパクト軽量で取り回しが良いギターになっている。ナット位置でのネック幅が41ミリと、やや細めになっていることも見逃せないだろう。重量は3.6Kg(弦を含む)で、スケールはいわゆるギブソンのミディアムだ。Player誌のインタビューで発言があったとおり、その直後に田中氏の元を離れた。同氏の判断としては「木の反応は抜群だが、バダス・ブリッジがイマイチと思った時期があり手放した」とのことだ。


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